0.6グラムの日野川鮎とは、昨年1月、福井県小浜市にある栽培漁業センターから日野川漁協の中間育成施設に運ばれた稚魚のことである。その鮎を4ヶ月間、組合員が育てた。その鮎は4月には12~15cmに育ち、日野川各所に放流した。その数は80万尾。
漁協組合員は鮎の日野川での成長を願い、また多くの釣り人が引きの強い、たくましい日野川鮎との出逢いに焦がれた。
解禁が6月にあり、鮎釣り本番となる8月初旬、福井県越前市に線状降水帯が発生した。
8月4日、豪雨による未曾有の被害が日野川を襲った。一部の支流では河川が氾濫し、住宅も床上浸水となった。また日野川の上流にある山は斜面が崩れ、土砂が川に流れ込んだ。水位は1週間下がらなかった。水かさが落ち着いた後でも、茶色い濁りは1ヶ月以上続き、今も一雨降ると、茶色い川と化す。
前述したが、8月は、鮎釣りの最盛期である。全国の多くの釣り人が日野川に訪れ、清らかな流れの中、たくましく育った鮎との対面を楽しむ時期であった。清らかな水の中でしか生きれない鮎は、すべて流され死んだ。
多くの人が、日野川は3年は元に戻らないと言った。実際、過去被害にあった川の多くが、鮎が棲み、元の生態系豊かな川に戻るのに最低でも3年はかかっていた。
被害から半年が経った2023年2月9日。栽培漁業センターから鮎の稚魚が日野川漁協の中間育成施設に運ばれた。
例年通り0.6グラムの体長5cmほどの稚鮎50万尾である。
例年より大幅に数を減らした。
2~3年待ったほうが良いのではないかと組合員で議論した。しかし、日野川鮎との再会を焦がれる釣り人の想いと、日野川に人が集まり賑わう風景を1日も早く見たいという漁協組合員の想いが、挑戦への覚悟になった。
この半年間、専門家含め、釣り人の協力を得ながら、鮎の成長に適した場所を調査した。
日野川の壊滅的な状況は変わらないが、十数箇所が以前と同様、もしくはそれ以上の鮎にとって棲み心地の良いポイントが見つかった。そこに厳選して放流していけば、限定的にも鮎のいる川になるのではないか、次年度に繋がる放流になるのではないかと考えた。一筋の光が見えた瞬間であった。
場所もサイズも厳選して放流することに決め、慎重に着実に実証するため、組合員による潜水調査や先端科学を使った調査は引き続き行なっていく。
日野川復興への覚悟の象徴が、2月9日に中間育成施設にやってきた。それが0.6グラムの鮎である。今後も都度、日野川鮎を追いながら、日野川復興への活動を報告していきたい。